アフリカの若手監督らによる珠玉の短編映画たち”African Folktales Reimagined(アフリカの民話再考)”@Netflix

 タンザニア、ケニア、ウガンダ、ナイジェリア、南アフリカ、モーリタニアの6つの新世代の映画制作者たちの短編作品がNetflix上で上映されている。世界各地で視聴可能(とはいえ字幕にはアラビア語、英語、欧米の主な言葉しかなかった)とのことだ。残念ながら日本語字幕はないのだけど、英語設定にすれば日本で観られるそうだ。

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 ユネスコとネットフリックスが協同して行ったアフリカのクリエイターを対象とした「アフリカ民話再考(African Folktales Reimagined)」という短編映画の制作コンペティッション企画で、2,000を超える応募があったとのこと。一次選考21名の後、ファイナリストとしてケニア、モーリタニア、ナイジェリア、南アフリカ、タンザニア、ウガンダのクリエーター6名が選ばれ、それぞれに短編映画を制作するための制作補助金が贈られたそうだ。

 そして、できあがったのが下記にご紹介する6作品である。特筆すべきは、6作品とも主人公が女性ということ。皆、何らかの問題を抱えながら、それに向き合おうとしてゆく女性たちだ。そしてこれらの映画の監督たちも半数は女性だそうだ。アフリカの女性たちの底力を感じるようで嬉しい。
 また、それぞれの言語でセリフが語られているところも多言語大陸アフリカならではの多様性の深みがある。
 
 以下は、わたしの主観による各映画の紹介。Twitterに上がってたそれぞれの作品の動画紹介も、ご覧いただければ。
 日本語字幕付きで観られるようになってほしいなあ。


🇺🇬ウガンダ 『Katera of the Punishment Island (懲罰島のカテラ)』27分 
       Director & Producer: Loukman Ali

 冒頭の湖のシーンが美しい。かつて婚外子を孕んだ女性たちが連れていかれ、足に重しをつけられ放置されたという島があったという。そこからたまたま命からがら救われた女性カテラ(でも子どもは島で死産)が、島送りの首謀者である(植民者である外国人にとり入っている)軍人に復讐を企てる。え、ここでこうなるの?大丈夫なの?という展開もあったけど、次々とやってくる局面から目が離せなくなる。後半は、カテラがヒーローとなる西部劇のような活劇に。ラストシーンも湖。
(タンザニア英語新聞The Citizenのこれら映画の紹介記事で一番紹介文が長かったのがこの映画。やはりタンザニア人は活劇が好き!?)

 使用言語: ルニャンコレ語、英語




🇰🇪 ケニア 『Anyango and the Ogre (アニャンゴとオーガ)』18分 
       Director:Voline Ogutu 

 母親が手段を選ばない怪物から子どもたちを守るという民話を現代にもつながる話として描く。未婚女性と既婚女性の住むエリアが政府によって分けられている”現代的”世界。”幸せとは何か”について考えさせられる。民話的世界と”現代的”世界が重なるように交互する展開も見もの。お兄ちゃん役の子役の演技も素晴らしい。

 使用言語:スワヒリ語、英語




🇳🇬 ナイジェリア 『Halima’s Choice(ハリマの選択)』 24分  
          Director: Korede Azeez  

 この中では異色の作品と言っていいのでは。SF的発想と民話を結びつけたところがすごい。世界の99%の人々がAIを導入し、体にチップをつけた社会で生きる中、そのシステムを拒否して村での暮らしを続ける1%の人々の中にハリマもいる。その村に見知らぬ男がやってくる。。。望まない結婚を強いられているハリマの選択は?存在感あるハリマの母親のその心の中を覗き込みたくなった。エンタメとしてもおもしろく、惹きつけられる作品。ヘアメイクや衣装もちょっと不思議で凝っていて楽しい。
 ハウサ語での「世界」はスワヒリ語と同じようにドゥニアというのだと知った。 

 使用言語:ハウサ語




🇲🇷 モーリタニア 『Enmity Djinn』19分 
          Director & Producer: Mohamed Echkouna

 砂漠とそこで暮らす人々の姿が雄大な美しさを醸し出す。大画面で観られたらいいのにと強く思う。またさまざまな顔立ち、肌色の人々が混じって暮らしている様子も観られる。タイトルにもあるDjinn、ジンとはイスラームにおいて、コーランに登場する精霊だそうだ。※ スワヒリ語ではjiniとなってるのと同じ精霊なのかな。
 映画の中では、この精霊は見えないけれども、感じることはできる、人の弱さや醜さに取り憑く悪い恐ろしい存在。呪術によって呼び起こすことが可能だという。砂漠のシーンから75年後の現代のモーリタニアの街に舞台は移る。そこでDjinnは何をするのか。砂漠のシーンで幼女だった主人公は、孫たちがいるお年寄りになっていて、Djinnの存在に気づく。

 使用言語:ハッサニヤアラビア語、フランス語




🇿🇦 南アフリカ 『MaMlambo』20分 
        Director: Gcobisa Yako 

 DVによって川に身を投げた女性Amandaが、川の精?女神?であるMaMlamboに助けられて‥。その二人と川だけで物語が語られる。静かだが、彼女らの表情と言葉に重みがある作品。下記のネット記事の解説によるとMaMlamboとは南アフリカのズールーの人々の民話に登場する「川の女神」だそうだ。
 衣装も派手さはないが、なかなか味わいのある凝り方をしている。

 使用言語:コサ語




🇹🇿 タンザニア 『Katope』13分 
        Director: Walt Mzengi

 さて、我らがタンザニアの作品は、一番短編ながら、光と影と大地の乾きと人々の願いと音楽とダンスに彩られていて中身が濃い。タンザニア中央部、ドドマのゴゴ人の村が舞台。ほとんどのセリフはゴゴ語である。弦楽器のゼゼの響きなど全編にゴゴの音楽が響く。ベテランの音楽グループNyati Mchoya Choir が劇中に登場する。彼らの演奏と歌と踊りも素晴らしく、盛り上がりの中で結末を迎える。その音楽はもちろんのこと、ゴゴの家の室内の陰影、女の子の表情、幻想的な光景などに惹き込まれる。

 「Katope」というお話は、ウォルター ボゴヤ氏によるタンザニアの出版社Mkuki na Nyotaから出ている絵本で読んだことがあった。子どものいない夫婦の赤土で作った人形が人間の男の子になる。両親に愛されて育つが、赤土なので、雨に濡れると溶けてしまうという話であった。

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絵本Katope


 映画の「Katope」では、それが女の子となっている。そして彼女は自分の使命を自ら受け入れてゆく。
「Katope」は、ゴゴ人の中では知られた話なのかなと思って、両親ともゴゴ人の知人に聞いてみたけど、知らないと言っていた。不思議なお話である。
 
 使用言語:ゴゴ語、スワヒリ語





⭐️参考サイト
”African folktales reimagined by Netflix” The Citizen. 2023/04/05
"African film-makers reimagine folktales as dark fantasy dramas for Netflix” The Guardian 2023/04/10.
”UNESCO-Netflix: Global launch of short films “African Folk Tales Reimagined” on 29 March” UNESCO 2023/03/23

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