タンザニアを伝える
日本の大学生たちに伝えたいタンザニアってなんだろう。
昨年12月に学習院女子大学で、「タンザニアの歴史、文化、暮らし」の話を学生さんたちにする機会に恵まれた。津山直子さん(アフリカ日本協議会副代表)が担当する「アフリカ文化論」の授業に招いていただいたのだ。(津山さんとは20代の頃、反アパルトヘイト運動で知りあった)
実は2020年12月にも同授業でお話しする機会を得たのだけど、その時はZoomを介してだった。今回は対面授業。学生さんたちと会えるので緊張もしそうだけど楽しみでもあった。
1847年創立というこの大学の深い朱色の荘厳な雰囲気の正門は、東京に現存する最古の鋳鉄門とのことで国の重要文化財にもなっているとか。校内もしっとりと落ち着いた雰囲気がある。

撮影:津山直子さん
2年生から4年生までの40数名の学生さんを相手にお話しした。
90分授業の中、お話は65分ほどと言われていたのに、パワーポイントのスライドを65枚も用意してしまったので、スピードを出していかないと!対話しながら話せたらいいのだけど、そんな余裕はなさそうだ。

パワポのトップページ。ヘンドリック リランガ作「太陽の神様が見ている/Jua la Mungu linaona」
タンザニアの面積、人口、言語、気候、民族、宗教などの基本情報から、キリマンジャロやセレンゲティ、ザンジバルなど“有名どころ、見どころ”の紹介、歴史(夫の根本の領域のインド洋で繋がる東アフリカから見たアラブ、インド世界の交易史に触れる)、女性大統領であること、教育制度、衣食住(衣は特にカンガを取り上げた)。広い国土で民族も120以上あるというタンザニアには食住もバラエティに富んでいること、そしてアート、リランガのシェタニ(精霊)アートやマティアス ナンポカのマコンデ彫刻、ティンガティンガアートなどの紹介などと盛りだくさんすぎ?

環境問題にも触れたかったので入れてしまった東アフリカ原油パイプラインのスライドは割愛せざるを得なかったけど、なんとか70分弱でお話終了。
学生からの質疑応答の時には女性大統領、女性議員の割合などが日本より多いけれども、他のジェンダー差についてはどうなのかなど、積極的に質問があった。授業が終わってからも質問に来てくれる人も多く(自分の記憶力が頼りないくせにメモしてない😢のでうろ覚えだけど、ジェンダー差、教育のことや農業のことなどの質問があったと思う)とても嬉しい反応だった。
授業の終わりにそれぞれの学生が書くコメントペーパーを津山さんに読ませていただいた。「全体としてポジティブなタンザニアが伝わってきた」というような感想が多くあり、嬉しかった。
そしてそれぞれの学生の印象に残る部分がかなりバラエティに富んでいるというのもおもしろかった。
<歴史でいえば>(下記・は一人だけ、◎は複数の人々からの感想があった、◉はさらに多くの複数の人々が同様なことを述べていた)
・ドイツ領時代の抵抗運動マジマジの乱(1905〜7年)では、ドイツが焦土戦を取ったために25〜30万人の人々が飢餓で亡くなったというが、そのことを現在のコンゴ民主共和国(特に東部)で行われているレイプを武器にする紛争と重なった。
・ザンジバルにもからゆきさんがいたという歴史的な日本とのつながりへの驚き。
・キルワ遺跡のフスニ・クブワ宮殿跡の海の見える浴場や夜間にもロウソクを灯せる野外劇場、ザンジバルのストーンタウンの街並みへの感嘆。

<現在の政治や社会状況では>
◎人口増加のあり方が日本と真逆。
◎ダルエスサラームの写真を見たところ、想像していたよりも都会。活気がある。
◎公立学校の授業用語が小学校のスワヒリ語からセカンダリーの英語に変わることへの驚きや進級にも国家試験があることへの心配と関心。
・義務教育7年間は短いのでは?
◎女性大統領、女性国会議員の割合が日本より多いことへの驚き。

ダルエスサラーム、カリアコー地区
<言語>
◎スワヒリ語が日本語とも響きが似ていておもしろい。唐辛子を「pilipili」とか。
(↑きっとこれはこの日授業を受けた人たちのネタになったのでは?)
・スワヒリ語を“自分たちの文化”として誇りを持っているようだ。
◉建国以来、紛争や内戦がなく、平和であること。子どもたちがタンザニアのいいところを「Amani(平和)」だと言えるのはすばらしい。日本ではどうだろうか?

<衣食住>
・ドドマの村の平らな屋根の上に木の実などを乗せて乾燥させるのはいいアイデア。
◎食事がおいしそう。
◎バナナ料理があり、主食にもなるのにはびっくり。

◎カンガのジナ(カンガセイイング)からは歴史や生活が感じられる。
◎カンガのジナがメッセージとして使われるのがおもしろい。
・カンガが冠婚葬祭に使われているのは、自国の文化に誇りを持っているからではないか。

ダルエスサラームのカンガストリート
◎お葬式でもカラフルな布を巻いているのが印象的。(明るくお別れしようとする文化か?)

ジョージ リランガの葬儀に集まった人々。2005年。
<シェタニ・精霊やアート>
◎オマリ アモンデのピンクのライオンの瞳に吸い込まれそう。邪気や生命力などいろいろ
なエネルギーを感じる。

◉ヘンドリック リランガの「水不足でアフリカのママたちはたいへん」という作品からは困難にめげない、そんな中でも笑って生きていくアフリカのママたちの姿が感じられた。女性たちが強く、逞しく感じる。前向きで勇気をもらえた。

・オーボエを演奏していたことがあるので、マコンデ彫刻と同じアフリカンブラックウッドで作られているということに驚きとともに世界は繋がっていると感じた。
・シェタニ(精霊)の存在に日本のアニミズムと通じると感じた。
・シェタニ(精霊)は座敷童に似ている。
・紹介されたアートのそれぞれに文化や生活が組み込まれていると感じた。
・学校で絵の技法を学んでいない人々がこういったアート作品を作り出すことに驚いた。
◎カラフルで、ポップで鮮やかで豊かな躍動感があり、パワーをもらえそうな作品が多い。

シェタニのマコンデ彫刻
今までタンザニアのことをあまりよく知らなかった学生たちもいたようだし、よく知らないまま「貧しい」などのマイナスイメージを持っていた人もいたようだけれど、今回の話の中で、ポジティブなタンザニアの姿も知り、自分や日本との繋がりを見つけてくれたり、または違う点に興味、関心を持ってくれたりしたようで嬉しい。あくまでもわたしから見たタンザニアのお話で、それぞれを深く掘り下げるところまではいかなかったのだけど、タンザニアとそこに生きる人々や文化に魅力を感じ、以前よりも身近に感じてもらえるようになったのでは?と自負している。
下記のコメントは特に心に残った。
「タンザニアは文化、伝統の面においてさまざまなモノや時間を“共有”し、穏やかに暮らしている点が印象的だった」
時間、空間も含めた大きな意味での“共有”というのは、今後を生きる上での一つのキーワードかも。
出会えた学生さんたちに感謝。機会をくださった津山さん、どうもありがとう!

<おまけ>
2020年にいただいた学生さんからの素晴らしい感想も載せちゃおう。
「タンザニアアートは人物であっても男であるとか女であるとか、黒人だとか美人だとか歳を取っているとかそういうものを全て取っ払った人間としての在り方を伝えているようなものだと私は感じました。」
「水不足で苦しむ母たちを描いた絵の中のシェタニは、笑顔で楽しそうな表情に描かれている。苦しい状況の中でも、幸せを見つけて暮らす母たちのたくましさが感じられた。シェタニに正しい姿はなく、自分の中には自分なりのシェタニが生きている、という考え方がとても気に入った。シェタニは、自分らしくいることを象徴する存在だと感じた。今回タンザニアの多くの文化について学んだことで、今までよりも強い心を持って生きていけそうだ。」
リランガの描くシェタニをそう捉えてもらえたのはとても嬉しい。
昨年12月に学習院女子大学で、「タンザニアの歴史、文化、暮らし」の話を学生さんたちにする機会に恵まれた。津山直子さん(アフリカ日本協議会副代表)が担当する「アフリカ文化論」の授業に招いていただいたのだ。(津山さんとは20代の頃、反アパルトヘイト運動で知りあった)
実は2020年12月にも同授業でお話しする機会を得たのだけど、その時はZoomを介してだった。今回は対面授業。学生さんたちと会えるので緊張もしそうだけど楽しみでもあった。
1847年創立というこの大学の深い朱色の荘厳な雰囲気の正門は、東京に現存する最古の鋳鉄門とのことで国の重要文化財にもなっているとか。校内もしっとりと落ち着いた雰囲気がある。

撮影:津山直子さん
2年生から4年生までの40数名の学生さんを相手にお話しした。
90分授業の中、お話は65分ほどと言われていたのに、パワーポイントのスライドを65枚も用意してしまったので、スピードを出していかないと!対話しながら話せたらいいのだけど、そんな余裕はなさそうだ。

パワポのトップページ。ヘンドリック リランガ作「太陽の神様が見ている/Jua la Mungu linaona」
タンザニアの面積、人口、言語、気候、民族、宗教などの基本情報から、キリマンジャロやセレンゲティ、ザンジバルなど“有名どころ、見どころ”の紹介、歴史(夫の根本の領域のインド洋で繋がる東アフリカから見たアラブ、インド世界の交易史に触れる)、女性大統領であること、教育制度、衣食住(衣は特にカンガを取り上げた)。広い国土で民族も120以上あるというタンザニアには食住もバラエティに富んでいること、そしてアート、リランガのシェタニ(精霊)アートやマティアス ナンポカのマコンデ彫刻、ティンガティンガアートなどの紹介などと盛りだくさんすぎ?

環境問題にも触れたかったので入れてしまった東アフリカ原油パイプラインのスライドは割愛せざるを得なかったけど、なんとか70分弱でお話終了。
学生からの質疑応答の時には女性大統領、女性議員の割合などが日本より多いけれども、他のジェンダー差についてはどうなのかなど、積極的に質問があった。授業が終わってからも質問に来てくれる人も多く(自分の記憶力が頼りないくせにメモしてない😢のでうろ覚えだけど、ジェンダー差、教育のことや農業のことなどの質問があったと思う)とても嬉しい反応だった。
授業の終わりにそれぞれの学生が書くコメントペーパーを津山さんに読ませていただいた。「全体としてポジティブなタンザニアが伝わってきた」というような感想が多くあり、嬉しかった。
そしてそれぞれの学生の印象に残る部分がかなりバラエティに富んでいるというのもおもしろかった。
<歴史でいえば>(下記・は一人だけ、◎は複数の人々からの感想があった、◉はさらに多くの複数の人々が同様なことを述べていた)
・ドイツ領時代の抵抗運動マジマジの乱(1905〜7年)では、ドイツが焦土戦を取ったために25〜30万人の人々が飢餓で亡くなったというが、そのことを現在のコンゴ民主共和国(特に東部)で行われているレイプを武器にする紛争と重なった。
・ザンジバルにもからゆきさんがいたという歴史的な日本とのつながりへの驚き。
・キルワ遺跡のフスニ・クブワ宮殿跡の海の見える浴場や夜間にもロウソクを灯せる野外劇場、ザンジバルのストーンタウンの街並みへの感嘆。

<現在の政治や社会状況では>
◎人口増加のあり方が日本と真逆。
◎ダルエスサラームの写真を見たところ、想像していたよりも都会。活気がある。
◎公立学校の授業用語が小学校のスワヒリ語からセカンダリーの英語に変わることへの驚きや進級にも国家試験があることへの心配と関心。
・義務教育7年間は短いのでは?
◎女性大統領、女性国会議員の割合が日本より多いことへの驚き。

ダルエスサラーム、カリアコー地区
<言語>
◎スワヒリ語が日本語とも響きが似ていておもしろい。唐辛子を「pilipili」とか。
(↑きっとこれはこの日授業を受けた人たちのネタになったのでは?)
・スワヒリ語を“自分たちの文化”として誇りを持っているようだ。
◉建国以来、紛争や内戦がなく、平和であること。子どもたちがタンザニアのいいところを「Amani(平和)」だと言えるのはすばらしい。日本ではどうだろうか?

<衣食住>
・ドドマの村の平らな屋根の上に木の実などを乗せて乾燥させるのはいいアイデア。
◎食事がおいしそう。
◎バナナ料理があり、主食にもなるのにはびっくり。

◎カンガのジナ(カンガセイイング)からは歴史や生活が感じられる。
◎カンガのジナがメッセージとして使われるのがおもしろい。
・カンガが冠婚葬祭に使われているのは、自国の文化に誇りを持っているからではないか。

ダルエスサラームのカンガストリート
◎お葬式でもカラフルな布を巻いているのが印象的。(明るくお別れしようとする文化か?)

ジョージ リランガの葬儀に集まった人々。2005年。
<シェタニ・精霊やアート>
◎オマリ アモンデのピンクのライオンの瞳に吸い込まれそう。邪気や生命力などいろいろ
なエネルギーを感じる。

◉ヘンドリック リランガの「水不足でアフリカのママたちはたいへん」という作品からは困難にめげない、そんな中でも笑って生きていくアフリカのママたちの姿が感じられた。女性たちが強く、逞しく感じる。前向きで勇気をもらえた。

・オーボエを演奏していたことがあるので、マコンデ彫刻と同じアフリカンブラックウッドで作られているということに驚きとともに世界は繋がっていると感じた。
・シェタニ(精霊)の存在に日本のアニミズムと通じると感じた。
・シェタニ(精霊)は座敷童に似ている。
・紹介されたアートのそれぞれに文化や生活が組み込まれていると感じた。
・学校で絵の技法を学んでいない人々がこういったアート作品を作り出すことに驚いた。
◎カラフルで、ポップで鮮やかで豊かな躍動感があり、パワーをもらえそうな作品が多い。

シェタニのマコンデ彫刻
今までタンザニアのことをあまりよく知らなかった学生たちもいたようだし、よく知らないまま「貧しい」などのマイナスイメージを持っていた人もいたようだけれど、今回の話の中で、ポジティブなタンザニアの姿も知り、自分や日本との繋がりを見つけてくれたり、または違う点に興味、関心を持ってくれたりしたようで嬉しい。あくまでもわたしから見たタンザニアのお話で、それぞれを深く掘り下げるところまではいかなかったのだけど、タンザニアとそこに生きる人々や文化に魅力を感じ、以前よりも身近に感じてもらえるようになったのでは?と自負している。
下記のコメントは特に心に残った。
「タンザニアは文化、伝統の面においてさまざまなモノや時間を“共有”し、穏やかに暮らしている点が印象的だった」
時間、空間も含めた大きな意味での“共有”というのは、今後を生きる上での一つのキーワードかも。
出会えた学生さんたちに感謝。機会をくださった津山さん、どうもありがとう!

<おまけ>
2020年にいただいた学生さんからの素晴らしい感想も載せちゃおう。
「タンザニアアートは人物であっても男であるとか女であるとか、黒人だとか美人だとか歳を取っているとかそういうものを全て取っ払った人間としての在り方を伝えているようなものだと私は感じました。」
「水不足で苦しむ母たちを描いた絵の中のシェタニは、笑顔で楽しそうな表情に描かれている。苦しい状況の中でも、幸せを見つけて暮らす母たちのたくましさが感じられた。シェタニに正しい姿はなく、自分の中には自分なりのシェタニが生きている、という考え方がとても気に入った。シェタニは、自分らしくいることを象徴する存在だと感じた。今回タンザニアの多くの文化について学んだことで、今までよりも強い心を持って生きていけそうだ。」
リランガの描くシェタニをそう捉えてもらえたのはとても嬉しい。
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