海藻シャンバ

 ザンジバルのパジェの海は満ち引きが激しい。満ち潮の時にはググッと海が迫ってくるが、引き潮の時には水平線まで歩いて行けそうに思えるほどだ。

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 そして潮が引いてくると海の上に立ち並ぶ低い杭のようなものがあちらこちらからたくさん現れてくる。その側には女性たちがいて、何やら作業をしているようだ。いったい何をしているのだろう。

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 遠浅の海を一歩一歩近づいてみると、そこには海藻のシャンバ(畑)が広がっているのだった。

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 畑の傍には座り込んで何やら作業している女性がいた。このシャンバは彼女、ママRの海藻畑。彼女はこの近くの村に住んでいて、毎日引き潮の時に畑の世話をしにきているそうだ。今朝は朝の6時から仕事を始めたという。6時ったらまだ薄暗い頃だ。(その頃にはまだ潮が満ちていたので、家で準備をしていたということか。実際に海で始めたのは8時頃ではないかな)

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 本日の仕事は海藻の赤ちゃんが波に流されないように綱で繋いで、杭の間に植えて新しい畑を作っていく仕事。ひとつひとつ結びつけていかなければならないので、結構手間がかかりそう。杭をあらためて海の中に打ち込んで動かないようにするのもなかなか力仕事だ。

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 一月半くらいで収穫できるようになるという。近くにかなり育った彼女の海藻の畑もあった。
 
 収穫したら乾かして、グニヤ(図多袋)に詰めてザンジバルにある海藻を買い取ってくれる会社に売るのだという。海藻の苗もそこから手に入れるのだと言っていた。
 この海藻は体にとてもいいし、料理にも使えるのだという。実際に齧ってみせてくれたけど、「ママRもこれを調理して家で食べるの?」と尋ねるとそっけなく「食べないわよ」という返事だった。

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結び付けられたカラギナン原藻


 その代わりというか、たまたま畑の間に入り込んできたので捕まえたという魚を見せてくれた。「今晩はこれを使って美味しい煮込みのおかずが作れるよ」と。なんの魚だろう。ヒラメの一種かな。

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 7人子どもがいるシングルマザーだそうだが、半数くらいの子どもたちはもう独立しているという。孫も3人いるとのこと。

 でも生活はまだまだ大変なので、この仕事を続けているのだと言っていた。「仕事の身入りは良くないよ」と言う。太陽の照りつける中で、水に浸かりながらの作業は大変だろう。でも、一国一城ではないけど、海の中の畑の主である。その姿がとても頼もしく思えた。

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 潮が満ち始めたお昼の11時半頃、ママRは海から戻ってきた。

       


 まさに引き潮時に目の前に海藻シャンバが広がるパラダイスビーチバンガローズのオーナー、三浦砂織さん(前回も登場)が「以前、ここで海藻養殖の調査をしていた日本人女性がいたよ」と教えてくれた。ググると.「タンザニア、ザンジバル島における海藻養殖に関する社会経済的研究」という2015年にアップされた和田美野さんという京都大学の大学院生だった方の研究要旨が現れた。

 それによると養殖されているのはカラギナンが抽出できるカラギナン原藻で、抽出したものは、主にゲル化剤、増粘剤、安定剤として食品(プリン、グミなどの菓子やゼリーなど)、化粧品、歯磨き粉製品、医薬品カプセルなどに使われているそうだ。 この海藻養殖は、フィリピンで1969年に始まり、ザンジバルには1989年に導入された。「生産された海藻は多くが未加工のまま国外に輸出され」、「地域における 重要な外貨稼得源となっている」とのこと。
 参入が容易で,「小規模な労働投入量である程度の現金収入を得ることが可能である」ので、ザンジバルでも順調に広がっていったが、海藻の生育不良が起こることがあり、生産者は安定した現金収入が得にくいという問題もあるという。

 また、観光業との折り合いもあるという。パジェの海辺でもカイトサーフィンが盛んになされている場所もあり、そこでは海藻養殖はできなくなっている。

 なるほどねえ。いろんなことが折り重なっているのね。タンザニアでは生業を一つに絞らず、安全のためにいくつか掛け持ちする人々も多い。女性たちがその一つとして、一人ででも始められ、ある程度自分のペースでできる仕事としては良い仕事なのではないか。今回も引き潮時の海に間隔をあけて並ぶ杭と女性たちの姿があちらこちらに存在するのを見た。

 そして早朝のまだ薄暗い時に、海に入ってゆく女性たちの姿も見た。シャンバから流れされてくる海藻を拾っているのだという。どのくらい集められるのだろう。生きる糧を得るために頑張っている姿が、昇りゆく朝日に照らされる。

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 海藻を使って石鹸を作っている女性たちのグループにも出会えた。海藻にザンジバル産のクローブやシナモン、レモングラスなどを混ぜたまさに手作り石鹸だ。バナナの皮で一つ一つ丁寧に包装されている。他にもヘアオイルなどいろんな製品を作り出していて、頼もしい。販路が広がるといいねえ。

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海藻石鹸のできるまで
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作業スペースの隣にあるショップ

 石鹸作りの女性たちのいる場所に案内してくれた海辺で出会った女性は(砂織さんの知り合いらしいが)、漁師から手に入れたばかりの新鮮なイカを手にぶら下げたまま歩き出した。イカつきのイカした案内、ありがたい。

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 ママRといい、明け方の女性といい、イカの彼女といい、ザンジバルの女たちの逞しさやおおらかな頼もしさにあやかりたいと思うのだった。


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