映画『Tug of War』ー国境を越えるザンジバルの歴史と恋

"We made a lot of films. But they don't cross borders"
(我々は多くの映画を作ってきた。でもそれらは国境(ボーダー)を越えていない)

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 タンザニアとの行き来などで国際線に乗った時、機内でアフリカ映画を観ることがある。東西南北アフリカの普段あまり触れることができない作品たちに出会え、心に残る作品に巡り会えることも多い。※1  でもそのラインナップにタンザニア映画が登場することは(わたしの知る限りでは)なく、残念だなあと思っていた。

 一番上の言葉はザンジバルを舞台にしたタンザニア映画『Tug of War(Vuta N'kuvute)』を制作したアミル シブジ(Amil Shivji)監督の言葉※2だ。

 この映画が、今年、タンザニア人が作ったタンザニア長編映画として初めてトロント国際映画祭の上映作品に選ばれたということを(スマホの”お勧め”で現れるニュース記事で)知った。そして映画のトレイラー(下記)はもちろんのこと、監督のインタビュー記事などに触れるたびにおお!このぜひ映画を観てみたいなああという気持ちが膨らんでくるのだった。 

 1950年代のイギリス保護領下のザンジバル(ウングジャ島)が舞台。ザンジバルの独立を求める闘争の高まりの中での、若き革命家デンゲ(Denge)と自身の自由を求めて決められた結婚から逃れたインド系ザンジバル人のヤスミン(Yasmin)の恋が描かれるという。



 『Vuta N'kuvute』という1999年に出版されたアダム シャフィ(Shafi Adam Shafi)によるスワヒリ語小説が原作。監督もティーンエージャーの時に初めて読んだという、タンザニアではよく読まれている小説だそうだ(けどわたしは知らなかった)。

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Mkuki na Nyota出版。監督はこの映画の構想時に出版社のボゴヤさんや原作者にも「Nenda ujaribu(やってみなはれ)」と後押しされたという。※3


 上記のトレーラーでは、美しく迫るような映像が続き、惹きつけられる。ストーンタウンの小道やオールドフォートでのシーンも映し出され、ザンジバルを知るものとして嬉しくなる。しかし、それだけではなく下記のシブジ監督のこの映画への視点にもとても惹かれる。

1)ストーンタウンではなくガンボ(Ng’ambo:スワヒリ語で対岸、向こう側を意味する)が主な舞台。
 ガンボは「もっぱらアラブ系、インド系の人たちの住居区であったストーンタウンから見ると入り江を挟んだ対岸で、ストーンタウンに働きに通うアフリカ系の人たちの住居区であった」※4(入り江は20世紀半ばに埋め立てられた)
 今や世界遺産であり有名な観光地ともなっている独立前の支配者側の人々が多く住んでいた街ストーンタウンではなく、その向こう側の地区、ガンボでのザンジバルの人々の日常と文化を、そこでの植民政策に対する抵抗運動を担っていた労働者たち、生活者たちの物語を撮りたかったのだという。

2)タアラブとシティ ビンティ サアド
 ザンジバル発祥の音楽タアラブが映画の中で大きな部分を占めているそうだ。タアラブは、もともとは宮廷音楽としてエジプトから取り入れられ、男性だけで、アラビア語で歌われていた。それを庶民の音楽にしたのが貧しい階層出身のシティ ビンティ サアド(Siti binti Saad:1880~1950)だった。その歌声の素晴らしさで引き立てられ、タアラブバンドの歌姫となった彼女は、タアラブをスワヒリ語で歌い、庶民も楽しめる音楽とした。初めての東アフリカでの商業用のレコーディングも彼女の歌である。彼女の作った歌詞には政治的なメッセージが含まれることもあったという。そのシティをモデルとした人物がこの映画には登場するそうだ。
 シティはその後もタンザニアの特に女性たちのシンボルとなっていて、1988年に創刊された女性の地位向上のためのタンザニアの雑誌の名前は『Sauti ya Siti(シティの声)』だった。表紙もシティ。


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3)ザンジバルの側の視点から見た歴史
 「植民地時代の歴史が我々(植民地化された人々)の側から語られてこなかった」※3 とのシブジ監督の言葉。だからこの映画では、植民者側、西洋側からの視点ではない我々の歴史を語ってゆくのだと。アフリカ映画の新しい言語で新しい波を作ってゆくのだと。自分たちの言葉、スワヒリ語での映画ということも大きいだろう。
 
 いまだ欧米中心となっている国際社会(映画界)に媚びることなく、自分たちの言葉で自分たちの歴史や文化を語りながらボーダーを越えて新たな地平を開く一歩となってくれそうなタンザニア映画なんじゃないかなと期待しているのだけど、期待しすぎかな?

 西欧的パターナリズム的視点からではなく自分たちの視点からの映画を!という意気込みを考えるとアイロニカルな気もするけれど、まず国際社会に出るには国際映画祭に出品することが必要なのだと監督は言う。スワヒリ語の映画が国境を越えるためにも映画祭を利用するのだと。トロント国際映画祭で高評価を受けたというこの作品は今月10月にはブルキナファソの※ワガドゥグ全アフリカ映画祭(通称:FESPACO)に出品するという。※3
 
 タンザニアでもぜひ上映したいし、まず撮影で多くの人々にお世話にもなったザンジバルで上映したいと監督は望んでいるそうだが、作品が各地の国際映画祭を巡った後になるだろうとのこと。まずは箔を付けないと!ということなんだろうか。日本の映画祭にも来ないかな〜。

 そして、日本の映画館でも”商業映画”として上映されることを願って。映画館でザンジバルの空気とスワヒリ語の響きとタアラブの音楽に包まれながら二人の切ない恋にときめくことができたら!




米1 機内で観て心に残ったアフリカ映画を二つほど
『SUPA MODO』 ケニア 2018 https://youtu.be/1un-LiVK1uo(ブルースリーのようなヒーローになりたい女の子。小児がんになっている彼女の内なるパワーとまわりの人々の愛情が描かれる。悲しみの中にも希望が見え、笑って泣ける)
『FRONTIERES』 ブルキナファソ 2017 https://youtu.be/Z5CGDt7cUEk (ブルキナファソ人女性監督によるセネガル、コートジボワール、ブルキナファソ出身のそれぞれの事情を抱えた女性たちが主人公の映画。長距離バスで出会った彼女たちが理不尽な社会に向かってゆく。しかしこのトレイラーはイマイチ)

※2  "21’ Film: Tug of War Interview with Amil Shivji" https://youtu.be/PqIJpij-f_g
   (シブジ監督の英語インタビュー動画)

※3  "Amil Shivji: Alivyoizindua filamu ya Kitanzania Vuta N'kuvute Toronto International Film Festival." https://youtu.be/g7s3ci7-Azc (シブジ監督のスワヒリ語インタビュー動画)

※4『Bi Kidude とその世紀』』根本利通 (2008年5月1日)


☆参考記事☆

・"Tanzanian Filmmaker Amil Shivji is Making History with a Story of Love and Resistance" https://www.okayafrica.com/tanzania-tiff-siviji-tug-of-war/       

・"トロント国際映画祭のこの映画の紹介サイト"  https://www.tiff.net/events/tug-of-war

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