老舗の本屋さんと長く続く贈り物

 ダルエスサラームの街中のサモラアベニューにある本屋さんTPH Bookshop(Tanzania Publishing House Bookshop)は1966年創業でずっと同じ場所で営業している老舗の本屋さんだ。(同年にタンザニアで最初に設立された出版社でもあるという※1)

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 タンザニアで出版された本を中心に学術書から文芸書、実用書、教科書、絵本まで幅広い品揃えで見ているだけでも楽しいのでたまに立ち寄る。この間、お土産にもなりそうなタンザニア料理の本を購入したら、それを入れてくれた不職布バックの文字がなんともうすてきだったのだ。


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 ”Zawadi ya Kudumu” =”長く続く贈り物”  つまり、本のことなのね。含蓄深し。

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購入したタンザニア料理本(Mkuki na Nyota出版)

 バックの下に記されてるハッシュタグ付きの言葉は Kitabu ni Zawadi (本は贈り物)。こちらも本は誰かへのプレゼントにもってこいだし、自分自身への栄養補給にもなるという、広がりのある言葉ねえ。本への愛を感じる。

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 そしてこの本屋さんの現オーナーのウォルター ボゴヤ(Walter Bgoya)さんが、タンザニアの独立した学術書出版の必要性を感じて ムクキナニョタ(Mkuki na Nyota)という出版社を1991年に設立。そのオフィスがTPH Bookshopの奥にある。

 この出版社、今や学術書のみならず、小説、ノンフィクション、写真集から児童書までダイバーシティに富んだ本を出している。英語だけでなく、積極的にスワヒリ語の本やスワヒリ語に翻訳した本の出版も行っている。この出版社のビジョンをWebサイトで見てみるとこう書かれていた。
「自社の進歩的で楽しく手に入れやすい書籍の出版を通してタンザニアの読書文化を活性化させる。世界の人々と我々に向かって我々の視点と経験を保存し、共有するためにこの地の文学を育てていく」
 頼もしい。

 手元にあるムクキナニョタで出版されたバラエティに富んだ本たち。日本人が著者の本も!(この本たちの説明は本文の下記にある☆写真の本たち へどうぞ!)

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 ちょうどこのブログを書いている時にYouTubeにアップされていた下記のボゴヤさんのつい最近のスワヒリ語インタビュー動画に遭遇。話ぶりから本と出版業に対する情熱がひしひしと伝わってくる。




 1942年生まれ。1961年、まだタンザニアの独立前に奨学金を得てアメリカの大学で1965年まで学ぶ。その間にタンザニアでは経験したことのない肌の色による差別を受け、黒人差別反対運動にも加わっていったという。ちょうどキング牧師によるアラバマ州のセルマ大行進※にも参加したとか。。すごい。

 帰国後、すでに独立していたタンザニア連邦共和国の外務省で仕事をする。その頃のタンザニアは当時独立のための解放闘争をしていた南部アフリカ諸国を積極的に支援していた。彼の今のオフィスには一緒に仕事をしたという解放闘争の闘士であったアミルカル カブラル(ギニアビサウ)、マルセリーノ ドス サントス(後にモザンビーク副大統領)、アゴスティニョ・ネト(アンゴラ初代大統領:彼の本も出したという)たちの写真もあり、激動の時代とともに生きてきたのねと感動する。

 1972年に外務省を去り、イギリスの出版社とタンザニア政府のパートナーシップで1966年に設立された出版社タンザニア パブリッシング ハウス(Tanzania Publishing House)※3 のマネージメントに加わる。出版を通して南部アフリカ諸国の解放闘争支援も続けていた。
 1990年に紙不足、機械のスペアパーツ不足、融資も得られない、などの困難な状況から仕事を離れたという。でも奥の深い出版や本の世界と離れがたく、少しでも本が出せたらいいじゃないかという気持ちで、1991年にムクキナニョタを設立した。
 
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 Mkuki(ムクキ)というのはスワヒリ語で槍、Nyota(ニョタ)というのは星。
 Mkuki na Nyota=槍と星。

 ムクキは、実は、ボゴヤさんが生まれた時に名付けられた名前でもあるのだという(ボゴヤさんの仕事を手伝っている息子さんの名前もムクキ)。

 星は遠くにある。ムクキナニョタの星は解放と国際主義(インターナショナリズム)の二つの意味を持っていて、それをアフリカの武器であるムクキ=槍(きっと自分自身のことでもあるんだろう)で目指していくということらしい。本がその力になるんだね。

 うんと幼い頃、文字が読める前から本に接することが大切なのだと語るボゴヤさんは、児童書の作家でもある。絵本をいくつも出している。それぞれスワヒリ語版と英語版がある。カニやカメレオンが主人公だったり、お話の展開もちょっと意外だったりして(いつかご紹介できたら)、おもしろい。

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ボゴヤさん作の絵本たち 

 ボゴヤさん自身もインタビューの中で(タンザニアの)人々は学業を終えると本を読まなくなってしまうと嘆いていた。本の価格が高め※4などの問題もあるだろうけれど、TPHブックショップ(ムクキナニョタ以外の出版社の本ももちろんおいてある)のいろんな本が並んでいる空間や、ムクキナニョタなどのやる気のある出版社、ボゴヤさんの前向きな本への情熱が、読書の魅力を広げていけることを願っている。

 JATAツアーズでも30年以上続けてきた農村滞在ツアーで訪問する学校には、児童書をずっとお礼として贈ってきた。子どもたちが本を読む、本に触れる機会が増えてほしいという願いを込めて。※5

 日本でも(世界的に?)スマホ時間が増え、読書時間が減っているだろうし、難しい時代にもなってきているのだろうけど。

 でも、本は人生の糧になる。Kitabu ni Zawadi、Zawadi ya Kudumu、本は贈り物、長く続く贈り物、やはりいい言葉だ。


 
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☆写真の本たち 左上から
①『NUMBODY』 : 日本人のMASAYOさんによるスワヒリ語と英語のお話に歌も入ったCD音源付きの楽しい絵本。スワヒリ語や英語を知らない子どもたちでもワイワイ言いながら楽しめそう。アメリカの「Children's Africana Book Awards 2012」で受賞。
②『Mwana Mdogo wa Mfalme』 : 「星の王子さま」のスワヒリ語版。翻訳にはボゴヤさんも参加。当ブログでも2010年に紹介した。
③『KANGA COLLECTION 』:カンガ研究家でポレポレオフィス代表の織本知英子さによるカンガに関する本。珍しいマダガスカル、日本、中国製などのカンガも紹介されている。英語・日本語・スワヒリ語で解説。
④『Dar es Salaam - Histories from an Emerging African Metropolis』: James R. Brennam,Andrew Burton & Yusuf Lawi 編 日本人の研究者、鶴田格さんも執筆している。夫がこの本の紹介記事を書いている。
⑤『The Old Boma』:Annika Seifert(ed.) ダルエスサラームに現存する一番古い建物The Old Bomaの歴史と解説。
⑥『Mama Ana Kazi /Mama has a job』:Elizabeth Brooks. ザンジバルを舞台にした元気な女の子の不思議なお話の絵本。スワヒリ語と英語。
⑦『Dar es Salaam, A History of Urban Space and Architecture』Annika Seifert with Karen Moon(ed )ダルエスサラームの歴史を写真入りで語る。

①、⑥やボゴヤさん作のいくつかの絵本はアフリカグッズのオンラインショップ Kwa Malogo でネットでも買えます。


☆Mkuki na Nyota 取り扱っている本の一覧もネットで見られる。
スワヒリ語本 https://mkukinanyota.com/shop/
英語本 https://mkukinanyota.com/product-category/language/english/

 ネット販売しているのかと思ったら、ボダボダ(バイクタクシー)便のダルエスサラーム市内のみ有料お届けサービスなのだった。ボダボダ便ということがなんともタンザニアらしい。


<参考文献など>

※1 竹村景子(1996)「民族語文学と出版事情:ケニア、タンザニアの現状を考察する」『アフリカレポート』第23号, アジア経済研究所 より
  https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8419094

※2 セルマ大行進を描いたキング牧師を映画化した原題『Selma』 邦題『グローリー/明日への行進』(2014)というアメリカ映画があります。

※3  C. S. L. CHACHAGE (1990) 「FOREWORD PUBLISHING IN TANZANIA」P.12
https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/D3C59EB4D1F16F63D185DE05060D111A/S0266673100005365a.pdf/publishing-in-tanzania.pdf

※4 写真でご紹介した絵本も一冊6,000シリングほどする。日本円にしたら300円くらいだけど、タンザニアではご飯と牛肉シチューと野菜の定食が3,000シリング程で食べられるとすると、高いと感じるのではないだろうか。

※5 関連拙ブログ⇨「子どもの本☆Vitabu vya watoto」(2010)

・「スワヒリ文学の受容の場を探る:タンザニアにおける読書環境と読者に関する調査」小野田 風子 
  https://www.africapotential.africa.kyoto-u.ac.jp/mms/fieldrepo/onoda201609

・ Walter Bgoya さんの息子のMkuki Bgoyaさんのインタビュー動画(スワヒリ語) https://youtu.be/aJ6HCYJ7v_w

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