中央鉄道ダルエスサラーム駅

 建設中のタンザニアSGR※1(タンザニアとウガンダ、ルワンダそしてブルンジ、DRコンゴとの輸送を活性化する目的の最高時速160kmの準高速鉄道システム)の高架線路がすぐ隣まで迫ってきていて、19世紀末ころにできたとされる中央鉄道のダルエスサラーム駅はなんだかググンと押されている。

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 道路に面した駅の建物の階段がちょうどいいベンチになるのか、そこに座っておしゃべりしたり、一休みしたりしている人々は何人かいたけれども、一歩駅の中に足を踏み入れるとがらーんとしていて誰もいないのだった。

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 駅長室も鍵がかかっており、どの部屋にも誰もいない。切符売り場にもさびれた空気が埃とともに漂っている。もうこの駅からは列車は出ていないのだ。 

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 夫の根本利通が2007年に記した「ダルエスサラーム便りの中の『ダルエスサラーム19世紀の建物』」に下記の文章がある。

「中央鉄道のダルエスサラーム駅も1890年代の建物だとされる。中央鉄道の建設計画は1895年ころに立てられ、タンガ~モシ鉄道の建設が先行したので、実際の建設は1905年から始まり、モロゴロまで開通したのが1907年(キゴマ到達は1914年)だから、ダルエスサラーム駅の建設は20世紀に入ってからだろうか?1890年代の建設と紹介する文書もあり、私はきちんと調査していない。」

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切符売り場から高架線を見上げる


 ドイツ領東アフリカだった時代からずっと歴史を眺めてきたこの建物はどうなるのだろうか。埃のたまったベンチを眺めていると、2階からラジオの音が聞こえてきた。まだ駅の職員が業務をしているのかもしれない、この駅舎の運命を尋ねることができるかもと切符売り場からつながる階段を上がっていった。

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 しかし、そこにあったのは、なんとバーなのだった。プラスチックのテーブルに掛けられた真っ赤だったビニールのテーブルクロスも全く色を失ってしまっている取り残されたような雰囲気のバー。大きなベランダのような作りになっているので、建設中のSGRの高架線路と崩れているような旧ホームが見渡せる。

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 6つほど置かれたテーブルには、若いとはいえない男性が3人ほど、バラバラに座っていて、まだお昼の3時なのにそれぞれビールを飲んでいる。冷えていない瓶ビールを。

 流石にビールではなく、炭酸飲料のビターレモンをカウンターにいた50代と思われるママに所望すると、彼女は気だるそうに「Moto au baridi?(冷えてないやつがいいの?冷えているのがいいの?」と返してきた。

 「この建物は壊されてしまうの?」とママに聞いてみた。
 「いいや、壊されたりしないよ」と答えた声はしゃがれていた。
 「じゃあ、何に使われるのかな」
 「……」
 「今までのように切符を売ったりするの?」
 「…そうなんじゃなあい?」
 結局、よくわからなかった。

 一番端っこの見晴らしのいい席で、ビターレモンを啜りながら、与えられた景色を眺ていた。

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 ここだけ時が止まっているのかもしれないと思えてきた。ここは実は、天井桟敷の片隅で、ここから見える景色は本当の景色ではなく、リアルなのはこの場所とこの建物だけ。だからここにいる限りこの建物は存在し続けるのかもしれないと。そんな気がしてきたら、なかなか立ち上がれなくなった。

                    


 上記のダルエスサラーム駅から出発していたTRC(タンザニア鉄道公社)のキゴマ、モシ、ムワンザ往復の列車は今は、そこから約2km離れたカマタ駅が起点であり終点となっている。

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 カマタ駅から見える古くからの線路と列車、そしてSGRの高架線との対比に時代の流れを感じる。

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 それぞれの路線の客車が毎日運行しているわけではないのだが、各路線の切符売り場の窓口にはスタッフがちゃんとスタンバイしていた。そのうちの一人の男性スタッフ(その日にいたスタッフは皆、男性だったな)にダルエスサラーム中央駅の運命を尋ねてみた。
 彼の答えは以下だった。
「壊されたりしないよ。SGRが完成したら、この以前からの路線は、またあのダルエスサラーム駅からの発着になるんだよ」

 カマタ駅とダルエスサラーム駅の間にタンザニアでしか採れない宝石タンザナイトをイメージしたという建設中のハイテクが自慢のSGRのダルエスサラーム駅がある。その時は太陽が雲に隠れていたけど、太陽の光が強い日なら、もっとキラキラと輝くのだろう。警備をしていた女性によるとこの駅は8月には完成とのこと。SGRの運行開始はもうちょっと先かな?とのことだったけど。

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 中央鉄道ダルエスサラーム駅に戻ると、駅の横側の鉄道警察隊と表示のある場所にお巡りさんが詰めていた。そのお巡りさんにもこの駅の運命を訊いてみよう。

「歴史的な建物だから気になるんだって?壊すことはないよ。タンザニア中央鉄道の歴史ある建物は皆、保存することになってるんだよ。でもこの建物は駅としては使われないはず。警察関連のオフィスになるかもしれないな」

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 皆、言うことは少しずつ違っていたけれども、ともあれ、中央鉄道ダルエスサラーム駅はまだその存在感を漂わせてくれそうなので、ほっとした。お巡りさんの言うように他の歴史ある鉄道駅もそうであることを心から期待しよう。

 SGRの運行(フェーズ1はダルエスサラーム/モロゴロ間※2)が始まるのもやはり楽しみだ。車窓の景色が変わって見えるのだろうか。求める景色となるだろうか。


 
 
※1 [About SGR] TRCのWebsite:https://www.trc.co.tz/pages/about-sgr

※2 ダルエスサラーム/モロゴロ間はSGRだと1時間半で行けるようになるという。

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