2020年総選挙より

 アメリカの大統領選挙の結果で世の中は持ちきりだけど(トランプ氏が勝たなくてよかった)、タンンザニアの総選挙も10月28日に行われた。そして今月5日木曜日には、2期目となるマグフリ大統領の宣誓・就任式がドドマのジャムフリ・スタジアムで行われた。「Uchaguzi sasa umekwisha.(選挙はすでに終わった)」と3回繰り返し述べた大統領は「わたしたちの前にある大きく重要な責任は、わたしたちの国を発展させてゆくための努力を続けていくことです」と続けたという。※1

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右下はサミア・スルフ副大統領

 わたくしごとだけど、考えてみたら、タンザニアで複数政党制の総選挙が最初に行われた1995年以来の5回の総選挙時はずっと家族でタンザニアにいた。今回が初めてのタンザニア外で体験するタンザニアの総選挙なのだった。そして夫はもういない。

 タンザニアにいたときは、自分の周りの小さな範囲だけだったかもしれないが、街に張り巡らされる選挙ポスター、政党のカラーを使ったカンガやキテンゲの出現やそれらを身にまとう人々、街角の政治談議、日常会話の中に漏れ聞こえてくる本音などから、選挙にむかう雰囲気、空気感を自分なりに感じることができたことを思い出していた。タンザニアの友人、知人の姿を思い浮かべながら離れた場所にいる落ち着かなさを感じていた。
 夫の根本利通は選挙ごとにその状況をずっと追っていて、下記のように詳しい記事にまとめている。

「民衆の選択―1995年タンザニアの総選挙から」(アフリカレポート)  
「民主主義への道程―2000年タンザニア総選挙報告」(アフリカレポート)          
「― 2005年 総選挙(6) 開票結果―」  
「ー 2010年総選挙 、結果 ―」 
「―マグフリ政権の船出 ―」(2015年総選挙)


 今回のタンザニアの総選挙の結果を報じる下記の新聞の一面では「再びマグフリに!」という大見出しが付き、与党CCMの圧勝を伝えている。
 
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 上記の記事によるとマグフリ大統領の得票数は12,516,252票で、2位の野党CHADEMAの大統領候補トンドゥ・リッシュ氏の1,933,271票に大差をつけている。

  ザンジバルの大統領選挙はCCMのフセイン・ムウィニ氏が 76.27 %(386,402)の得票率で他の14人の候補者(2位は6度目の挑戦となるACT-Wazalendoのセイフ・ハマド氏)を破って選ばれたと報道されている。※2
 
 国会議員も野党は大幅に議席を減らしたという。(上の写真の左下参照:緑色が与党議席)

 今年7月に世界銀行がタンザニアを低所得国から中所得国に格上げしたように経済成長をけん引しているマグフリ政権の存続を望むという国民の選択なのかもしれない。が、一方で選挙への不正や暴力があったとの野党やその支持者たちなどの主張も大きなニュースとなり、報道ではCHADEMAとACT-Wazalendoの2つの主要野党は選挙結果を認めず、新たな選挙を求めるとある。※3 ※4

 今回のタンザニアの総選挙について、夫が生きていればなんと言っただろうかと考えている。
1995年の総選挙の後では「タンザニアの民衆」は「『国家』という厄介な代物を、じっくり飼い慣らしていくのではないかと、ふと幻想してみる」と述べていたが。。

 落ち着かない気分の中、下記のニュースを見かけたのでご紹介したい。
『アイダ・へナンさんは北ンカシ地区で新たな歴史を作った』
 
 
https://www.mwananchi.co.tz/habari/kitaifa/Aida-Khenan-alivyojiandikia-historia-jimbo-la-Nkasi-Kaskazini/1597296-5638958-v3v9n6z/index.html

 この記事によると、264の国会議員選挙区のうち、女性議員の当選は26人だったそうだ。そしてこの野党CHADEMAから立候補したアイダ・へナンさんは、タンザニアの西、タンガニーカ湖沿いのルクワ州の北ンカシ地区で与党CCMの候補をも破って当選し、たったひとりの野党CHADEMAaの議員となった。(CHADEMAは前回の2015年の選挙では34議席獲得していた)
 複数政党制の総選挙が最初に行われた1995年以来、このルクワ州の地区には、2015年にケナンさんが初当選するまでは女性議員がいなかったそうだ。「未婚者に投票するな」などのネガティブキャンペーンも受けながらも支援してくれる人々を信じてあきらめなかったと。

 「女を代表に選んだってしょうもないという考えはまだある、でも、わたしはその考えを終わらせてみせる」
 「わたしの当選によって信頼に足る女性議員への扉がさらに開かれたらいい」と頼もしい。
 「わたしの優先事項は、ここの人々の優先事項とイコールだ」として「水へのアクセス、健康、教育、道路」をあげている。
  女たちが水汲みのために長い道のりを歩いたりしなくて済むように井戸を増やす、小学校を増やして長距離の徒歩通学を減らす(女子の長距離徒歩通学は望まない妊娠にもつながっている)、妊婦が安心な出産ができるように医療施設を増やし、アクセスをよくする、などと述べていた。ほんと実現してほしい。

 野党がこの選挙を認めてないので、彼女の議会参加がどうなるかもまだはっきりしていないようだが、へナンさんは「この地区の代表としてのわたしを党は祝福してくれるだろう」と述べている。
 「議会多数派の与党には、少数派の意見に耳を傾けてから、物事を決めるようにアドバイスする。そして、党派や宗教の主義を超えて、この地区の人々の意見を尊重し、協力していく。重要なのは発展を実現することだ」と。
 
 言っていることはとても真っ当だし、女性、少数者の意見もどんどん届けてほしいと思ってしまう。頼もしさを感じる。

 そして「国家というのは、水道・電気をもたらしたり、学校・診療所を建設してくれる、自分たちのためになるはずのものなのだ」(根本利通※5)という言葉を思い出した。

 タンザニアだけでなく、様々な国、場所で「国家」のありかたが問われているのだろう。人々のための国家であってほしい。
 
 

 ※ タンザニア総選挙2020 選挙登録者数 29,754,699人 投票者数 15,091,950人  https://www.nec.go.tz/news/commission-announces-dkt-magufuli-elected-to-be-the-president-of-united-republic-of-tanzania-on-28th-october-2020 より

※1 https://www.mwananchi.co.tz/habari/kitaifa/Magufuli--Uchaguzi-umekwisha-/1597296-5638528-pxhlmpz/index.html より 
※2 https://www.thecitizen.co.tz/tanzania/news/hussein-mwinyi-wins-zanzibar-presidency-2728160 より
※3 米国務省英連邦およびEUは、この選挙についての不正、暴力などがあったという主張についてきちんと調査し、解決すべきという声明を出している。在タンザニア日本大使も今回の選挙へのメッセージを出している。
※4 https://www.reuters.com/article/us-tanzania-politics-idUSKBN27G0DM より
※5 「ー 2010年総選挙 、結果 ―」

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