『ようこそ、革命シネマへ』の希望

 スーダンの首都ハルツーム近郊。四日間も停電が続いている夜(タンザニアの停電の夜の日々が懐かしい)、「誰も(停電に)文句言わない。従順だ」などとぶつぶつ言いながら、集まっている還暦過ぎの4人の男たちは、懐中電灯のライトと、カメラの代わりに丸めた手で「アクション!」の合図で映画撮影の真似事をはじめる。仲間の一人はスカーフをかぶって女性の役をほがらかに演じている。暗闇の中、和気あいあいと楽しそうに。

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 それがドキュメンタリー映画『ようこそ、革命シネマへ』(原題:TALKING ABOUT TREES)の冒頭シーン。4人の男たちは皆、スーダンの映画人。監督や製作者たち。60年代や70年代にヨーロッパやエジプトで映画製作を学んだ人たちもいる。

 映画の中にも彼らの作品が挟み込まれ、垣間見ることができる。70年代から80年代にかけてスーダンでは彼らを中心に多くの映画が創られ、全土で70以上の映画館があったという。いろいろな制約はあっただろうけれど、スーダン独自の映画文化が開花してたのね。すごい。知らなかった。
(わたしがタンザニアに住み始めた1989年ころ、映画館はあったけど、上映されていたのはちょっと古めの香港のカンフー映画などアクション映画が主で、タンザニア映画は見かけなかったなあ)

 でも、1989年に軍事クーデターによってバジール政権が誕生し、勃興した文化が弾圧されてゆく。1990年半ばには、ほぼすべての映画が上映禁止となり、映画人たちも亡命や拘束を余儀なくされてしまう。この4人の映画人も辛酸をなめてきた。

 この映画は2015年に母国で再び集まった彼らが、自分たちの、人々の映画を取り戻していこうとする話。



 まだ映画館はなく、彼らは、車に機材を積み込んで、町や村を訪ねて、野外映画上映会を開いている。上映されてたのはチャップリンのモダンタイムズ。古い映画だけど、集まってきた老若男女は映画に夢中。砂風で壁に掛けたスクリーンがあおられても、映画から目をそらさない。

 映画館だった建物の裏手の空き地でサッカーを楽しむ男の子たちに「映画館で映画を観たいか」と聞くと、前向きで元気な返事が戻ってくる。もう半ば廃墟と化しつつあるような映画館を再生させ、多くの人に楽しんでもらおうと、4人の映画人は力を合わせてもう一度映画を上映しようとするのだが。。。。

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映画パンフレットの裏表紙より


 冒頭のシーンが象徴しているのかもしれない。停電の中、暗闇の中、映画を撮り続けるような、静かな抵抗を彼らはずっとしていた。あきらめなかった。4人とも大声で叫んだりしない、静かで柔和な表情で、冗談をいいつつ、うまくいかなくても、また始めればいいさと言う。そう言える強さがある。仲間がいて、映画というおおいなる味方がいる。彼らの優しいまなざしの奥には消えない炎があるようだ。本当の強さとは、あきらめないことなのかもしれない。

 映画のパンフレットのガスメルバリ監督のインタビューによると、(その時点で)まだこの映画はスーダン国内で上映できてないそうだ。「何百人もの国民の勇気によって」30年にも及んだバジール大統領による独裁政権が昨年終焉を迎えた現在「大きな問題なく映画上映できるのではないかと考えている」と言う。まず、映画館が必要だろうけど!

 砂色の街、ハルツーム。でも映画人たちは乾いていなかった。彼らの静かに燃え続けた映画への情熱が、これからのスーダンへの希望と重なった。


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 映画の原題は下記の言葉から取ったのだという。(日本語訳は映画のパンフレットより)

「こんな時代に木々について語るなんて犯罪のようなものだ!それは恐怖や悪を前に沈黙するのと変わらない」(ベルトルト・ブレヒト)
 ”It's Bertolt Brecht's quote - What kind of times are these, when to talk about
trees is almost a crime because it implies silence about so many horrors? ”





<関連インフォメーション

☆日本全国でのロードショー上映は残念ながら終わりつつあるようですが、またの上映があることと期待してます。
公式サイト⇒https://animoproduce.co.jp/yokosokakumei/

☆スーダンにおける新型コロナ状況(6月23日現在)
感染者数:8,889人 死亡者数:548人 出典:https://www.worldometers.info/coronavirus/country/sudan/
まだ増加傾向にあるようです。。

「COVID-19による生活の変化と人々の声-スーダンの首都ハルツーム-」 JVC(日本ボランティアセンター)スーダン現地駐在員 今中 航さんのブログ(5月7日付)でスーダンの様子をうかがうことができる。
 
「Coronavirus in Sudan exposes new leaders」BBC 5月25日のスーダン人記者による記事では、スーダン政府は、コロナ危機の間、リーダーシップを発揮できなかったとあるが。

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