『抵抗の轍 アフリカ最後の植民地、西サハラ』サハラ―ウィが自由に呼吸するには

 新型コロナに加え、アメリカのフロイドさん事件が構造的な差別をはっきりさせたことによって世界が揺れ動いている。

 日本のわたしたちだって無関係ではない。日本の「黒人」をめぐる報道や、アフリカ報道にも問題があるものが多いことにもわたしたちの姿勢が問われている。

 新型コロナ感染に関しても、アフリカは危ないと一方的に報道されていることが多いが、モーリシャス、ジプチ、南アフリカ、ボツワナ、ガボン、ガーナ、ルワンダなど日本より人口一万人当たりのPCR検査数が多い国々も多く※1、アフリカCDCのサイトによれば、6月11日の新型コロナ感染者数は209,434人、亡くなった人は5,678人とのこと。アフリカ55か国の人口が約13億人だそうだから、今のところ、広がりは抑えられていると言っていいのではないか(もちろん、亡くなった方一人一人の物語を忘れてはいけないのだけど)。※2

 アフリカ大陸、特にサブサハラアフリカでは、マラリア、エイズ、エボラなど多くの感染症と対峙してきた歴史があり、今回も対応が早い国が多かったこともあり、日本がアフリカから学ぶべきこともあるはずだ。※3

teikounowadachi.JPG

 そして人権の抑圧ということでいえば、アフリカ大陸にも未だ「植民地下」で生きることを余儀なくされている人々がいる。
 なんてえらそうに書いているけど、この新郷啓子さんの『抵抗の轍』を読むまでは、アフリカ大陸の東はじに長くいたくせに、恥ずかしながら、知らなかったことがたくさんあった。。

 アフリカCDCやアフリカ連合(AU)のサイトでは、アフリカ55か国となっているけど、日本の外務省が2019年にTICAD用に作ったパンフレットでは「54か国を有するアフリカ大陸は」となっている。日本が数に入れてないのが西サハラなのだ。

 モロッコの南側に位置する西サハラでは、その土地に元から住んでいたサハラ―ウィと呼ばれる人々が「サハラ・アラブ民主共和国」としての民族自決を長年にわたって望んでいる。が、今でもまだ(元宗主国スペインの後、)隣国モロッコに実行支配されていて「最後の植民地」となっている。
 なんだかね。この「実行支配」って。アフリカのほかの国々は独立を果たしたというのに、なぜ西サハラは?それも同じアフリカの国が占拠しているとは。

 1991年に西サハラの代表組織ポリサリオ戦線とモロッコが国連和平案に同意し、西サハラの独立を民族投票で決めるることになったのだが、その後、モロッコが自国民を占領地に移住させ、有権者の数を増やそうとするなど、時間稼ぎと占領の既成事実化をすすめていて、なんと未だに住民投票は行われていない。
 
 サハラ・アラブ民主共和国(RASD)を承認している国々があり、AUには加盟しているので、AU加盟国は55か国。でも国連はRASDを主権国家として認めておらず、国連加盟のアフリカの国は54か国となっている。
 タンザニアはもちろんRASDを承認している(ビアフラ共和国をいち早く承認したニエレレの国だわ:アフリカでもモロッコの言い分を支持している国々もある)が、「西サハラは日本は国家として承認しておりません」という立場をなぜだか取っているので、アフリカ54か国という表記になっているのだ。とはいえ日本は「西サハラに対するモロッコの主権を承認してはいない」(P253:『抵抗の轍』のページ、以下同)らしい。玉虫色?
 
 西サハラは、リン鉱石という天然資源や豊かな漁場を持つことでも知られているそうだ。前出の日本の外務省制作パンフレットの1ページ目にも写真入りで「アフリカから輸入されている海産物の代表格がタコ。日本で消費されるタコの約6割がモーリタニアまたはモロッコ産です」とあるが、このモロッコ産のタコにはかなりの西サハラ産のタコが含まれているという。『国連による法律上の見解では、「西サハラはモロッコのものではない」ということだ』
 そういうタコをモロッコ産と表記してしまっていいのか。

 昨年の横浜で開かれたアフリカ開発会議(TICAD-7)にもAUの加盟国であるRASDを日本は招待しないという奇妙なことに。でも、代表団は来日し、TICADの会議に初参加した(日本政府はしぶしぶ黙認、発言権は与えられず)。

 『抵抗の轍』には、占領からの「解放」、自己尊厳を求めるサハラ―ウィたちが描かれている。モロッコによる占領から逃れた人々は、40年以上にわたって隣国ナイジェリアの砂漠の中で難民生活を余儀なくされている。モロッコが実効支配する西サハラの領土には砂の壁が築かれ(壁の外側には地雷が埋められている)、その壁の内側の占領地に留まった人々は「二級市民に貶めれられ」ているという。「占領支配という体制は、土地を奪い、資源を奪い、土地の主を二級に貶めてこそ存続する」(P.149)

 占領体制には言論の自由は無論なく、声を上げる人々は弾圧される。「西サハラでは、自分の親戚家族の中に、不当に逮捕されたことのある者や消息不明になった者がいない家族はないと言われる」(P.131) その苦難の状況と不屈のサハラ―ウィたちの姿を本書は浮かび上がらせる。

「西サハラ紛争」は、国境紛争でも分離独立紛争でもない、脱植民地化の問題である」(P.81 )のに、どうして終わらないのか。モロッコとそれを支える(それで利を得る)国々があるからだ。フランスやアメリカ、日本もその一つ。外務省のサイトで河野前外務大臣の 「西サハラは日本は国家として承認しておりませんし,今後も国家として承認するつもりはございません」との発言を見てびっくりした。日本は植民地体制を支持し続けると言い切ってしまうのかと。日本が、植民地からの解放を求めるサハラ―ウィにやっていることは、警官がフロイドさんの首に膝を押し付けることとどう違うのだろうかと。サハラ―ウィが自由に呼吸できるようにするために、わたしたちがすべきことがあるはず。『抵抗の轍』、お勧めします。
 

<参考>
※1:https://www.worldometers.info/coronavirus/ より

※2:タンザニアのように一月もの間、感染者数の表示が変わっていないところもある(だからと言ってタンザニアにいる人たちからは、新型コロナでたいへんなことになっているという直接的な話はきこえてきていないが)。

※3:経験を活かしたアフリカの感染症対策は日本よりも進んでいる・稲場雅紀氏
https://www.youtube.com/watch?v=bLpMJE40NKo&feature=emb_title

※4:「国の様で国でない地域・西サハラ:アフリカ北西部に残る大きな問題」より

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック