映画『ティンガティンガ』

 ティンガティンガ派絵画の創始者、エドワード・サイディ・ティンガティンガ(1932~1972)の人生は、ハリウッド映画になってもおかしくないよなあと思い、以前、ブログ『ティンガティンガ その2☆元祖E.S.ティンガティンガ』に書いたことがある。ご本人とは面識がなかったけれども、その伝記を読んだり、最後の直弟子だったムゼーアモンデから話を聞くたびに、すごくポジティブで面倒見がよく、生きることが大好きな人だったんだと思えたのだ。生きているときも亡くなってからも多くの人々に大きな影響を与え続けるという劇的な一生だったんだなあと思った。

IMG_20190823_112331.jpg

 そのティンガティンガの生涯がタンザニアで映画になるという話を出演者でもあるBarzile Masayoさんから聞いたのは一年以上前のことだったかと。
 Masayoさんは、タンザニアで俳優、歌手、絵本作家、映像制作、手作り石鹸など、マルチな活躍をしてきた日本人女性!いつも生き生きしていてすてきなひとなのだ。俳優としていくつものタンザニア映画に出演している。ヘアサロンを経営しているなぜかお金のない日本人役のこともあったなあ。

num body.jpg
Masayoさん作絵の絵本。スワヒリ語と英語、Kwa Malogoで購入できます☆


 これらのタンザニアメードの映画は、映画館で上映されるのではなく、DVDなどで出回ることが多い。ダルエスサラームでも貸しDVD屋をよく見かけたけれど、ネットの普及で変わってゆくんだろうか。

 昨年8月、タンザニアに行ったとき、その「ティンガティンガ」の映画の宣伝ポスターが、ダルエスサラームのティンガティンガ派絵画工房に貼ってあった(一番上の写真)。おお、完成したのね!と売られていたDVDをひとつ購入。

tingatingadvd.jpg

 元祖のE.S.ティンガティガの笑顔の写真の前には、真剣な顔つきの俳優たちが並ぶ。裏面にはこの映画のストーリーを書いたというE.S.ティンガティガの姪で、画家でもあるアグネス・ムパタがどーんと現れる。「すばらしいティンガティンガ絵画の創始者である最愛の伯父のその生涯の良い思い出の物語を書こうと決めた」と説明書きがあった。アグネスがプロデューサーなのだそうだ。

with agnes.jpg
ティンガティンガの工房にてアグネス・ムパタとともに


 2時間7分34秒というこの大作映画は、E.S.ティンガティガの生まれたタンザニア南部のルブマ州トゥンドゥル県ミンドゥの村が最初の舞台。ドローンカメラを駆使して山や村を俯瞰しながら近づいていき、壮大な物語の始まりを感じさせる。大いなる期待を持たせてくれるオープニングシーンなのだ。

title.jpg
©TINGA TINGA ARTS GROUP

 村では彼らマクア人の伝統と文化を伝える成人儀礼が始まってて、まだ少年のE.S.ティンガティガも該当者の一人。8歳から10歳くらいの子どもたちだろうか。男の子の集団と女の子の集団が別々の場所に集合させられる。その男の子たちが引率者の男性とともに、10㎞離れた儀礼が行われる小屋まで川を越え、山を越えて1日がかりで歩いていくというシーンもなかなか見ごたえがある。

tingatinga2.png
©TINGA TINGA ARTS GROUP

 ほとんどはスワヒリ語で会話がすすむが、村のお年寄りはマクア語で話すことも(英語字幕あり)。

jando.jpg
©TINGA TINGA ARTS GROUP

 ともあれ、この成人儀礼シーン(特別なストーリーが挿入されるわけでもない)、子どもたちが無事に戻ってきて、村人たちが太鼓で出迎えるところまでなんと冒頭から25分も続くのだ!村の伝統的な成人儀礼(割礼はでてきません)の記録を残したかったのか!?ほんものの村人たち自身がたくさん参加していると思われ(というかほとんど村人?)ほんとうにとっても楽しんで踊ったり歌ったりしている様子なので、こっちまで楽しくなってくるのだった。

ngoma!.jpg
©TINGA TINGA ARTS GROUP


 村の建物などはセットではなさそうで、ティンガティンガの子ども時代は1940年代だとすると、ほとんどそのころと村の様子は変わっていないということ?

 村の成人儀礼のお祭りのシーンの30秒後にはもうティンガティンガはちょっとおなかの出た立派な大人になっているのだった。。

 ここから先は少し(タンザニア映画らしく?)展開が冗長かなあと思ったけれども。

 ティンガティンガのおばあさん役をなんとティンガティンガの実娘のマルティナ・ティンガティンガが演じているそうだ!ティンガティンガが村を出る別れの場面など、切々としたいいシーンになっていた。やるねえ。

bibi.png
熱演中のマルティナさん©TINGA TINGA ARTS GROUP

 アグネス自身もティンガティンガのインターナショナルなアートの力を認め応援する開発公社(NDC:National Development Corporation) の役人役で登場。

agnes2.png
右端がアグネス、左端はティンガティンガ役のネスト・ダニエル©TINGA TINGA ARTS GROUP

 そのほか、ティンガティンガ派絵画組合の画家たちがちょこちょこ登場してくる。最後の方の会議のシーンは全部現役の画家の登場だったはず。なかなかみなさん、迫真の演技!

tingatinga safi.jpg
ティンガティンガ組合の議長役(上の写真の立っている人)は現議長でもあるイディ©TINGA TINGA ARTS GROUP

 われらがMasayoさんは、ティンガティンガの評判を聞きつけて、絵を見に来た日本人役。流暢なはずのスワヒリ語をわざとつたなくしゃべったりしてmgeni(=お客さん)感を上手にかもし出していた。

masayo (3).png
Masayoさん登場シーン©TINGA TINGA ARTS GROUP

 ちょっと残念だったのは、ティンガティンガ自身がカラフルな絵を描いていくシーンが見られなかったこと。楽しそうに絵を描く姿が見たかったな。あと、映画の中のティンガティンガは真面目で、あまり冗談も言わず、シリアスな表情の多い人となっていたのが、わたしの思い描いていた姿とは違っていた。もっとポジティブシンキングのあっかるい、突き抜けた人かなあと思ってたんだけどな。

IMG_20190823_113633.jpg
現在のティンガティンガ工房


 とはいえ、多々あるダンスシーン(村のだけでなく、妻になるひともダンサーだったし)は見ているだけでも楽しい。こんなに踊るシーンが多いのはインド映画と張り合えるかも?

workshop.jpg
現役画家たち©TINGA TINGA ARTS GROUP

 その生涯を映画にという関係者のみなさんのティンガティンガへの想いの強さをぐっと感じた。E.S.ティンガティンガ、ティンガティンガ派絵画の現在のこれだけの広がりを見ても(タンザニアの名物を創出し、それでごはんを食べていける人を大勢生み出した)、やはり凄い人だったんだねえと改めて。

この記事へのコメント

2020年02月03日 10:27
約30年前にこのティンガティンガに憧れてアフリカの地を訪ね、旅しました。ゆえに大変思い入れのある絵画ですね。その創始者の映画だなんて素敵。ぜひ見たいです。現在私は絵描きとして活動していますが、このティンガティンガの色使いから学びとったことを忘れないようにしたいと思っています。
asami
2020年02月03日 22:17
テツジ山下さん

コメントをありがとうございます。
とても繊細な美しい作品を作られているのですね。
Youtube拝見しました。
https://youtu.be/H4tG-SOuHQ8
アフリカの水を飲んだものは、アフリカに帰ると言いますが、アフリカの水を飲んだアーティストの作品もきっとそうなのかもしれませんね。そして羽ばたいていくのでしょうか。

この記事へのトラックバック