キリマンジャロに登った画家イディ

 先日、ティンガティンガ派の画家イディが
「キリマンジャロの天辺までいったことがあるんだよ」
って言ったとき、わたしは、とっさに絵を描いていてそういう境地に達したことがあるっていう意味なんだろう、けっこう詩的な人だったんだねと思ったのだった。

 なぜかというとキリマンジャロ登山は魅力的なんだ(でもわたしは登らないだろう)けど、最低でも4泊5日は必要な上、ガイド、コック、ポーター必須の登山だし、毎日国立公園入園料を払わなければならないので、かーなーりのお金がかかる。であるからして、タンザニア人で普通の生活をしている人にはなかなか挑戦するのは難しい。
 しかし彼は「キリマンジャロ山の山頂ウフルピークまで本当に登ったんだよ!」って言ったのだ。

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イディの作品


 イディ・イッサ・イディ(Iddi Issa Iddi)の白を基調とした緑いっぱいの絵が好きである。鳥の絵が秀逸で、描き込みがとても細かく丁寧で繊細な感じがする。いつだったかティンガティンガのワークショップに飾られていた80センチ四方くらいの大きさの白を背景に鳥たちがたくさん描かれたイディの絵が気に入って、でも、ちょっと手がでなくて(負けるよとは言ってくれたけど)、ワークショップに行くたびに「まだ売れてない」とほっとしていたことがあった。結局買えなかったのだけど。かわりに下記の小さいサイズの絵を描いてもらった。

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 かと思うと、大型のキャンバスに男と女がたーくさんうごめいてる猥雑な群集画を描いていることもあった。「こういうのも売れるのさ」と言っていた。ティンガティンガ派の絵描きは、好きな絵だけを描いてれば(や、猥雑画も好きなのかもしんないけど)いいってわけではなさそうだ。お客のニーズを捉えないといけないんだね。

 1972年にタンザニアの南の村で生まれたイディ。彼の母は、元祖ティンガティンガと同じ村の出身で、親戚にも画家がいて、幼いころからティンガティンガ派絵画の存在は知っていたのだそうだ。1992年にダルエスサラームに出てきて、しばらくは古着を売る行商人をしていたという。知り合いからティンガティンガ派の絵を学ぶことを勧められ、行商人をやめて画家見習いになったそうだ。
 その期間、元祖ティンガティンガの従兄弟でもある親戚のおじさんのムルタという画家(コペンハーゲンのビルの壁画を描いたという)の家に居候させてもらっていたのだって。

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イディと彼の作品


 キリマンジャロ山に登ったのは、1998年のことで、ビール会社のキャンペーンの一環だったようだ。ティンガティンガのワークショップにやってきたムズング(白人)に誘われたのだという。山頂のウフルピークでビールの栓を開けたんだそうだ。まるで結婚式のようだったと。(その後、これはコマーシャルとしてラジオやテレビでも流れ、イディもその情景を絵に描いたそうだけど、わたしは知らなかった)
 イディは登頂できて「ものすごく疲れたけれど、涙がでるほどうれしかった。ウフルピークに到達できた唯一のティンガティンガ派画家として自分を誇りに思った」という。

 我が娘は2回も学校の仲間たちとキリマンジャロ登山をしている。けれど、わたしはなんでお金かけて苦労しなきゃいけないのと思う怠け者なので、きっとキリマンジャロ山には登らないだろう。でも、登頂から10年以上たった今でもイディには、キリマンジャロ登山は鮮烈な印象を残しているということを考えると、登山の魅力ってすごいのだなあとあらためて思う。キリマンジャロ山という世界遺産を守るために資金が必要なんだろうし、雇用創出になっているというのはあるだろうけど、もっとタンザニアの人たちにも(経済的に)登りやすい山になるといいね。

この記事へのコメント

aya
2012年02月24日 03:20
彼の作品、素敵ですね~それにしても20歳を過ぎてから修行を始めて、ちゃんと画家としてやっていけるってすごいですね。才能なのか。
キリマンジャロ登山が高いのって外国人料金だからなわけじゃないんですか?タンザニア人も払わなければいけないんですね。私も下から眺めるだけでいいなあ~なんて思いつつも近くで見たら登ってみたくなるのかな?まずは富士山に今年こそ登ろう!と思ってます♪それでしんどかったら・・・キリマンジャロは無理ですね(笑
Karanga
2012年02月24日 09:06
キリマンジャロ登山口のマラング付近の村にいました。でもいつも登山者を見送るばかりで、私もお金をかける遊び(?)はあまりしていませんでした……。

2011年24時間テレビでイモトアヤコとさえちゃん(?)という女の子が登っているのを見て、感動はしつつも、自分が登りたいとは思わなかったなぁとふと思い出します。

バガモヨの大学では、アートコースはティンガティンガしか教えないのでしょうか。ふと疑問に思いました;
tomoko
2012年02月24日 17:01
キリマンジャロは「登る」のではなく「見るもの」というのが我が夫婦の見解です(笑)
マラソンも然りです。
ちなみにiddiはダルエスのティンガティンガ村の職人さんですか?
今度会ってみたいな☆
asami
2012年02月25日 22:49
ayaさん

ティンガティンガ派の画家は師匠がいるから一から自分ではじめるわけではないけど、絵が売れるようになるには、センスやひらめきは必要でしょうね。
キリマンジャロ、確かに国立公園入園料はタンザニア人料金となり、その部分はかなり安くなりますが、人件費、宿泊費、装備費などかかりますから、一筋縄ではいかないんだと思います。
富士山に登ってみるの??登山の醍醐味ってあるんでしょうね。味をしめたらぜひ、キリマンジャロにも!
asami
2012年02月25日 23:00
karangaさん

登山に魅せられた人たちの話もきくので、素晴らしい経験なんだろうなとは思うのです。登ったことのない人にはわからないとてつもない魅力があるんでしょうね。近くにいるとかえって登る気持ちがしなくなるのかな。
でもキリマンジャロ山は下から見上げているだけでも、なんとなく神々しい気持ちになったりすることもありました。

TaSUBaという名前になったバガモヨの学校ですね。ティンガティンガをそこで教えているんですか?それはよく知りません。近代美術一般をやっているんじゃないのかな。
asami
2012年02月25日 23:04
tomokoさん

かなり悟りを啓いてますね!?
Iddiはティンガティンガ派絵画作家組合の組合員ですが、最近ダルエス郊外の自宅で描いていることが多いようです。もし関心があれば、連絡先をお伝えしますぞ。

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