合気道の稽古 in Dar es Salaam

 夜の7時15分開始という合気道の稽古場にその5分前に到着したら、すでに道着に着替えた数人の男の人たちが道場の拭き掃除を始めていた。なんとなく身が引き締まる。

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 ダルエスサラームの街中の公立中学校の建物の一角を借りて、週に2回、合気道の稽古が行われている。おととしの12月に始まったそうだ。稽古場を支えているのは、当地のJICA事務所所長の勝田幸秀さんだ。学生時代に合気道を始め、今までの赴任地でも地元の人々と共に稽古をしたことがあるそうだ。体を鍛えたいものや、合気道に関心のあるタンザニア人たちが、仕事や学校を終えた後、バスや徒歩でやってくるという。稽古料は集めていない。  
 一度見学に行きたいと思っていたら、快く受け入れていただいた。

 この場所は柔道場にも使われるそうで、思っていたよりも広い。インド系の人たちの催しにも使われるのか、インドの神様のポスターも貼ってあったりする。そのポスターの下に合気道の稽古のときに勝田さんが掛ける合気道の創始者植芝盛平氏の肖像入りの掛け軸のとりあわせが、おもしろい。

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ピントあってない…


 勝田さんは黒い袴姿だ。わたしも背筋を伸ばした。

 稽古の開始前には、全員正座(できない人もいるけど)で挨拶。受身の練習から始まる。受身の音が道場に響き渡って迫力がある。
 遅れて参加する人もちらほらいるけれど、道場に一礼した後、着替えて、挨拶から始め、受身の稽古へと自分たちで黙々とやっている。もちろん、無駄話をする人などいない。小学生たちも数人やってきた。残念ながら女性はいなかったけど、年齢層は幅広く、インド系の若者も参加していた。

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 わたしのほかにも見学者がいたので、わかりやすいようにと、いろいろな技をやって見せてくださった(のだと後から聞いた)。合気道を間近で見るのも初めてのわたしには、どの技がどうだなどというのは、よくわからないのだけど、柔らかな身のこなしで、ちょっと手を動かすだけで、相手の動きを止めて崩してしまう所作には見惚れてしまった。かっこいい!(ほんとうは、手だけではなく、全身を使っているのだろうけど)

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 その簡単なようで複雑な勝田さんのお手本を見て、すぐに練習にとりかかれる参加者たちもすごいと思った。中には長身で恰幅のいい男性と小学生で稽古のコンビを組んでいたりして、合気道の「小よく大を制する」を文字通り実践しているようだ。道着に汗がにじむ。その間、勝田さんはにこやかに彼らの間を回り、疑問に答えたり、稽古の相手をしたりしていた。
 
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 道着は、古着でときどき出回ってくるものを手に入れるらしい。日本にいる誰かさんの名前入りだったりして。

 20人の参加者が稽古をする道場には熱気があふれる。仕事帰りの人は疲れているだろうに、そんな様子は見せないのだ。

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道着に汗がにじむ



 1時間半の合気道の稽古は見学者のわたしにも短く感じた。真剣に見いってしまった。
 終了後、何人かの参加者と話したけど、小学生で道着を着ている子は、始めて3カ月目で、着てない子は本日が初めての参加だそうだ。勝田さんによると、本日が初めての人は彼だけだが、昨年末から始めてまだ初心者の人もいれば、稽古開始当初からずっと続けている人もいるという。道着の小学生に「なんで合気道を始めたの?」って訊いたら、照れくさそうに「好きだから…」だって。

 そのほか、柔道も空手もやっている、という猛者もいた。「あんたは、何のスポーツをやっているんだね」と逆に訊かれたので、「うーん、特に何も」と答えると、「合気道も柔道も空手もやっていないとは、あんたは日本人じゃないね?おれのほうが日本人だな」と言われてしまった。ははは。

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記念撮影☆


 「他者と争わず自然や宇宙の法則(=気)に和合することによって理想の境地を実現する」という合気道には試合もない。そういった合気道の精神を彼らはどれだけわかっているんだろう。(わたしもよくはわかってないけど)練習を積んでいく中から会得していけるのかな。小学生たちは、この先もずっと合気道を続けていけるのかな。勝田さんは、自分の任期終了後に引き継いで教えてくれる人がいるだろうかということが気にかかっているそうだ。

この記事へのコメント

M
2011年01月22日 00:20
合気道といえば、その世界では神様と言われた塩田剛三が有名ですね。
身長150cm足らずの小柄な体格で、自分より大きな5人を一辺に吹っ飛ばしたり、、信じられないような技?を次々繰り出しているのを動画で見た事があります。

ちなみに、この方は某有名格闘漫画にもモデルとして登場しています。

私も一度体験してみたいですね。(近くに道場がないのであれですが。。)
asami
2011年01月23日 18:17
Mさん、知識豊富ですねえ。わたしは合気道についてはほとんど知らなかったので、塩田剛三さんのことも、今回調べてみて、お名前を目にしたくらいです。どのマンガのモデルになっているんでしょうね。

合気道、もう少し若ければ、やってみたいなあとも思うんだけど…、と言うと「年齢は関係ないよ」と言われちゃうんですけどね。でも、歳をとっても続けられるというのは、魅力的ですね。
M
2011年01月23日 21:58
結構偏ってますけどね。。私の知識は^^;
興味のある事に対しては覚えが良いのですが、それ以外については…

塩田剛三氏はグラップラー・バキという漫画に出てきます。私ぐらいの年代の男性の方なら誰でも知ってる(聞いた事ある)と思います。

asamiさんも合気道を身につけてしまえば、tapeliだろうとmwiziだろうと恐るるに足らず!?
asami
2011年01月25日 20:22
Mさん、ほっほう。『グラップラー・バキ』は、知りませんでしたが、かなりの人気マンガなのですね。

合気道を身につけたら、tapeliに対抗できるでしょうか???元々のわたしの気質と性格で難しそうだとおもいます…。
とまとん
2011年02月21日 23:37
すばらしいですね!
タンザニアのかたが日本の武道に関心をもってくれてうれしい~~

でも・・ふ~~わたしはといえば・・
合気道には恥ずかしいおもひでがあります
20歳のころ友だちに誘われて合気道をほんの少し習ったことがあるのですが、はじめに、道場の端から端までを「片手でんぐり返り」(片手だけついてでんぐり返りをする)するのです。しかもなんどもなんども繰り返し片手でんぐり返りしなくてはならないのです・・

それが痛いのであります。頭も顔も手も・・
それで、片手でんぐり返りだけでめげてしまい、ギブアップしてしまいました・・・
根性のないわたしであります

だからなおさらタンザニアの人たちに頭がさがります!すごい!がんばれ~
asami
2011年02月23日 14:09
とまとんさん、日本の武道、合気道、柔道、空手はタンザニアでもよく知られているようです。お稽古で数える時は日本語なんですよ。いち、に、って。
合気道は年齢に関係なくはじめられ、年齢に関係なく続けていくことができるときいてちょっと心が動いたのですが…。とまとんさん、もう一度やってみます!?
小森あさ子
2022年11月07日 04:48
初めまして。アラ還の私とアラ古希の主人と夫婦2人合気道.入江道場の門を叩いて約1年になります。入江道場の門下生が外交官のご主人の仕事でご家族でタンザニアに赴任中で、時々グループLINEにタンザニア通信下さるので、タンザニアの合気道をもっと知りたくて訪ねています。週5清掃の仕事をするかたわら、休みの(木)と夜教室の(金)稽古に行く日々。前受身(でんぐり返し)恐いですけど、正しい受身を何度も何度も基本を教えて下さいますので1ミリずつ出来るようになってきたと思います。愛は国境を越えるといいますが、私は【合気道は国境を越え、世界中の人々と繋がれる】とasamiさんの記事、先輩のタンザニア通信を読み確信しました☺︎
なので、めげずに諦めずに運動神経鈍い私達夫婦でも続けられているのですから、再挑戦してもらえたらと(頭は付かない、肩を付いて回る)くれぐれも怪我なさらぬ様、頑張ってください⤴️のエールを込めて書かせていただきました⤴️🌏😄
asami
2022年11月11日 20:21

小森あさ子さん

メッセージありがとうございます。
気づくのが遅く、お返事遅れてごめんなさい🙏
今もタンザニアの合気道門下生たちは頑張ってると聞いています。
小森さんご夫妻もすごい!頑張ってらっしゃいますね。
エール、ありがとうございます!ちょっとわたしにはハードルが高そうですが、励まされます。

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